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響の喧嘩

Posted by ユウ on 12.2010 1 comments 0 trackback
彼が眼を覚ましたのは毎朝七時に鳴る目覚まし時計ではなく、扉から発せられる何者かが打ち鳴らす音の所為であった。
ドンドン、ドンドン、ドンドン、ドンドン。
いくら待とうが諦める様子は無く、急かすように鳴り続ける。
「誰だ……ったく……」
眠い目を擦りながら、緩慢な動作でベッドから這い上がる。
枕元に置いてあった携帯を確認すると、天海春香の壁紙と共に一時半と表示されていた。
もう三十分もすれば、草木すらも眠りにつき始める時間だ。
緊急の用というわけでもあるまい。それならばわざわざノックなどせずとも、電話をかけたほうが早い。
だがしかし、未だにノックは鳴り止まないのは、やはりそれなりに――誰だかは知らないが――急ぎの用事でもあるのだろうか。
どちらにせよこのままでは、近隣の住民に迷惑がかかることは必至である。
「はいはい、今から出ますよ」
あくびをしながら、覚束ない足取りで扉へと向かう。
彼が鍵を開けた瞬間、その音に気付いたのかあれだけ煩くなっていたノックが止んだ。
防犯のために一応チェーンロックはしたまま、そっと扉を開ける。
ドアの隙間から、彼にとっては非常に馴染み深い人物が見えた。そこに居たのは紛れも無く、
「……響、こんな時間に何やってるんだ」
「やっと起きたかプロデューサー!」
彼が勤める765プロ、そこのアイドル候補生。我那覇響だった。
蛍光灯の薄明かりの下、ぴょこぴょことポニーテールを揺らして扉の前に立っている。
「で、どうしたんだこんな時間に」
「ちょっと用があって。……とりあえず、入れてくれないか?」
「待ってろ」
いったん扉を再び閉め、チェーンロックを解除する。
女を、それも765プロのアイドルをこんな真夜中に部屋に入れるというのは抵抗があるが、
このまま外で話していれば、悪徳記者に発見される危険性もある。
それならば、いっそ中に招き入れた方が安全だろう。
「よっしゃ、どうぞ」
「お邪魔しますだぞ!」
そうして、長い長い夜が始まった。

「で、こんな深夜に叩き起こした理由を聞こうか」
二人で狭い机を挟む形で座り、不機嫌な様子のまま彼がこの事態の理由を聞いた。
突然の訪問のために床は散らかり放題だが、この際仕方が無い。
響を比較的綺麗なベッドに座らせ、自分はくしゃくしゃになっている服を放り投げスペースを作り、床へと座る。
「……」
だが、問いに応えずただ響は沈黙を突き通している。
「またペットたちが家出でもしたのか?」
「……逆」
「はあ?」
「……自分が、家出してきたんだぞ」
「まさか、冗談だろ」
響宅のペットらはよく彼女宅から家出をする。
彼らの食事を勝手に拝借する響に問題があるのだが、彼も幾度かその捜索に付き合った事がある。
だがそれはペットが飼い主から逃げる、というよくある光景であるからいいのであって、
飼い主がペット達から逃げるというのはどうも、信じられない出来事であった。
だが響の目は、冗談を言ってるようには見えない。
「何があったんだ」
「今日はお給料も入ったし、自分も気合を入れて料理を作ったんだけどな。イヌ美達がその料理を勝手に食べて……」
「それで喧嘩して、家出してきたのか?」
こくりと響が頷いた。
ペットがペットなら、飼い主も飼い主である。ペットは飼い主に似るというが、これはまた逆ではないか。
仮にも人間が、同じ視点で喧嘩をしてどうする。
「……で、皆の家に行くのは迷惑かなって思って」
「俺の家に来た訳だな」
「プロデューサーなら家も近いし、ちょうどいいかなって思ったんだけど……、迷惑だったか?」
ああ、迷惑だった。と言うのは簡単だろう。
だが今にも泣き出しそうな少女を目の前にして、そのような非道な言葉を投げかける勇気は彼に無かった。
「いや、そんなことは無い」
「ありがとうプロデューサー!」
「ところで、今はいいとしてもこれからどうするんだ?」
「そうだなー、とりあえず明日考えればいいかなって」
ああ、明日。としばらく言葉を反芻する。
明日、明日ということはつまり。
「……もしかして、泊まるのか?」
「大丈夫だぞ! 自分は完璧だからな、ちゃんとお泊りのセットも持ってきてるさー」
そういえば持ってきていた大き目の鞄を覗くと、歯ブラシや化粧道具といった小物からパジャマや下着まで、ありとあらゆる物が入っていた。
確かにこれほどの物があれば不便はしないだろうが、彼にとっての問題はそうではなく。
「仮にも男の部屋で泊まるのはちょっとまずいんじゃないか」
「あはは。そりゃあプロデューサーは変態だけど、こういう事にはちゃんとしてるって春香が言ってたからな」
信じてるさーと笑顔で言う。
けらけらと笑う姿には、無防備というより信頼だろうか、自分は大丈夫という自信が見えた。
「まあ、仕方無いな。こんな深夜じゃ行く場所も無いだろうし、一晩くらいならいいか」
その言葉に安堵したのか何処からともなく、ぐーという間抜けな音が聞こえた。
自分ではないとすると、目の前に居る彼女からとしか考えられない。
音の主である響は、赤面し俯いていた。
「えーとだな、たいしたものは無いけど何か食うか」
「自分、昼から何も食べてなくて……」
「ペット達に夕飯を食べられたんだろ? インスタントラーメンしかないけどいいよな、醤油ととんこつ、どっちがいい?」
買い溜めていたインスタントラーメンを、数個机へと持ち運ぶ。
給料が尽きた時の切り札として取っておいたのだが仕方無い。
第一、腹をすかせて涙目になっている女性を、それが自分が勤めている事務所のアイドルとすればなおさら、無視することは彼にはできなかった。
返事を待たずに、台所へと向かいお湯を沸かす。
もし給料がなくなり食事に困ったとしても、やよいに相談すれば何とかなるだろう。
極貧生活が相棒となっている彼女なら、喜んで彼に食べられる野草を教えてくれるはずだ。
「じゃあ、これで」
響が選んだ醤油ラーメンの封を開け、お湯を注ぎ込む。
このラーメンが出来上がるまでの三分と、響がこのラーメンを食べ終わるまでの数十分。
それまでに、今日は何処で寝るか考えなくてはならない。
彼が、今日幾度目かの大きな溜め息を漏らす。
「そろそろ三分立ったんじゃないか!?」
もし犬であるならば、千切れんばかりに尻尾を振ってそうな響の声がやけに他人事のように聞こえる。
明日事務所についたら、響のこれからを律子に相談してみよう。
そう考えながら、いい匂いがする醤油ラーメンを響に手渡した。

部屋の中には、ラーメンの残り香が充満している。
あれから響は飢えた獣のようにラーメンを貪り、ようやく満腹になったとかで、その後風呂へと入りパジャマに着替えてきた。
自分以外が使うシャワーの音、微かに聞こえる響の鼻歌、そして湯上りの響のパジャマ姿。
たがが外れそうになる理性をどうにか宥め賺し、ようやく消灯する段階まできた。
携帯を見ると、時刻は既に三時を回ってしまっている。
もうここまでくれば、早く寝たいというのが彼の本音だ。
寝て起きればもう出勤時間であり、あまりにも無防備な姿を晒し続ける響に惑わされることも無くなり、無意味な葛藤をせずにすむ。
どこに寝るかは、響がラーメンを食べ終わった後に半ば強制的に決めた。
彼はソファーに、響はベッドに寝ると。
ソファーとベッドならば、だいぶと距離が離れているし大丈夫だろう。
彼の意見を何とか、二人一緒に寝ればいいと言う響を納得させたのだ。
「それじゃあもう電気消すぞ」
「なあ……、やっぱり二人で寝ないか?」
「ダメだっつったろ。一日くらいソファーの上でも俺は大丈夫だから気にすんな」
おやすみ。と呟き、何か言いたげな響きの表情を暗闇で強制的に隠した。
一刻も早く寝ようと横になるが、睡魔はどこぞのアイドルのように迷子になってしまったのか、眠れる気配が全く無い。
むしろ寝ようと意識すればするほど、余計に眠気の波が引いていくことが解る。
それに、だ。彼の睡魔を拉致してしまう原因はもう一つある。
この女性気が一粒も存在していなかった部屋の、数歩近寄ればという距離にいる響のせいだ。
静かになったからこそ、衣が擦れる音がやけに明瞭に耳へと届く。
生々しいその音が、彼を覚醒させてしまうのだ。
「……こんな状態で、寝れる訳ないだろ」
「やっぱり寝づらいんだな?」
「うおっ!?」
限りなく小さく呟いたと思っていた声に反応が返ってきたために、驚いた彼が盛大にソファーから転げ落ちた。
少しずつ暗闇に慣れてきた目が、すぐそばに立っている響を捕らえる。
「いや、思いの他ソファーは快適だが、どうしたんだ?」
「……プロデューサー、一緒に寝てくれないか?」
「さっきもう決めただろ。駄目だってば」
「でも……その……」
「どうした?」
「さ、寂しいんだぞ」
響曰く、普段はペット達とベッドの上で固まって寝ている。
アイドル業をしていて、もし撮影の関係で何処かしらのホテルに泊まる時も確かに一人で寝ていたが、
特に今日はペット達と喧嘩別れをして家出をしている最中である。余計に寂しさが際立ち、
「で、その寂しさを俺と一緒に寝て紛らわせたいと」
「プロデューサーがソファーで寝るんなら、自分もここに寝るさー」
そう、床を指差すほどになっているのだった。
「そうは言ってもだ、さすがに一緒に寝るのはな……」
「プロデューサーは自分に変態な事をするのか?」
「するわけないだろ」
「じゃあ、いいんじゃないか?」
言葉に詰まる。いくらでも反論を述べることはできるが、微かに見える響の目には涙が浮かんでいる。
否定し続ければどうなるか、彼には用意に想像がついた。
一晩中涙で枕を濡らしたままでは、彼女の目は充血するだろう。
そんな状態で事務所に、さらには撮影所に行ったらどうなるか?
プロデューサーとしても、男としてもそのような事態は避けたい。
逡巡していると、何処からとも無くひっく、ひっくという音が聞こえた。
「あー、もう。解った解った。一緒に寝るから、な?」
「本当か!?」
嬉しそうにいつものポニーテールを下ろしてロングになっている髪を揺らし、響が再びベッドへ戻る。
そしてこちらを見て、布団をニ、三回たしたしと叩いた。
「さあここに」と言ってるかのように。
渋々と彼も夜の帳の中をそろそろと歩き、普段から寝慣れてるベッドへとたどり着いた。
なるべく響の方を見ないように、狭いベッドで極力離れて寝転がる。
「へへー、プロデューサーが一緒に寝てくれるなんて嬉しいぞ」
「……誰にも、特に律子には言うなよ」
うん。と嬉しそうに言い、彼が開けていたスペースを、もぞもぞと動いて詰め寄り消してしまった。
薄い布越しに、響の熱が、鼓動が伝わる。
「お、おい?」
「えへへ、……お休みプロデューサー」
逃げようにも、極力離れようと努めていたために、彼はベッドの端で寝てしまっていた。
中央へと行く道は響がブロックし、これ以上逃れようと動いたら転がり落ちてしまう事は明らかだ。
立ち上がり逃げようとも考えたが、響の両腕はがっちりと彼の腰に回されていた。
「あのな、響……」
「……イヌ美、……ごめんな」
寝言か、寝る前の最後の言葉か。
小さな、とても小さな、涙に濡れた声が僅かに聞こえた。
「……まあ、仕方無いか」
今日くらいは。たまには、こういうのも悪くない。
目を瞑る。相変わらず響の体温を感じているせいで、眠気はどこかに置き去りにされているようだが。
きっとその内、寝れるだろう。もう彼の眠りを妨げるものは、何も無い。

携帯のアラームが何処からともなく鳴り響く。
彼がプロデュースしている女の子の持ち歌であるI Wantが、彼を起こすべく流れ続けていた。
枕元をごそごそと手探りで探すが、それらしいものは見つからない。
落下してしまったかと、携帯を探す手をベッドの上へと移すと、
ぷにゅ、とやけに柔らかい何かに手が触れた。
「ん、んー……?」
そして聞こえる、彼以外の何者かの声。
そうだ、思い出した。昨晩突然起こされ、響が泊まりにきていたのだ。
そして結局一緒に寝ることになって……。
そう、昨晩の記憶を辿り寄せていると、昨晩の騒動を巻き起こした本人が目覚めた。
彼女もまた彼同様に、目覚めたばかりで事態が掴めないのか、辺りをキョロキョロと見回している。
そして彼と目が逢った時、ようやく思い出したという表情へと変わった。
未だに携帯は何処かで鳴り響いている。今度は手探りではなく、部屋を見回して探す。
「ああ、あそこか」
携帯はソファーの上に落ちていた。昨夜ベッドへと寝床を移す際、携帯を忘れてきたのだろう。
慣れた動作で、仕事を終えたアラーム音を切った。
「おはよう、プロデューサー……、よく眠れたか?」
「まあ、そこそこかな。おはよう」
癖っ毛の強い髪をさらにぼさぼさにした響が、横になりながら彼をにこにこと見つめている。
「それよりもう七時だぞ、後三十分ほどで出社しないと間に合わん」
「お、そうなのか? じゃあ用意するかー」
「ここでは着替えるなよ、せめて見えないところで着替えてくれ」
服を鞄から取り出し、そのまま着替え始めようとした響を諌める。
そしてそれから二人で朝食を食べ、歯を磨きと色々している内に、あっという間に三十分が経っていた。
響を見れば、まだ化粧をしている。出社用意が整った彼と比べ、まだ暫くかかりそうだ。
どちらにせよ、出勤は変な勘繰りを避けるために別々にしなければならないと思っていたところで、彼にとっては都合がよかった。
「じゃあ響。俺はもう行くけど、鍵は渡しておくから出る時に閉めておいてくれ」
「解ったぞ」
「よろしく頼む」
そう言い残し、響を残して出社する。
長い一夜だった。睡眠時間が足りないが、今夜はぐっすり眠れそうだ。

あれから。
特に秋月律子や音無小鳥にも勘繰られる事無く、765プロでの仕事も終える事ができた。
響も家に帰り、ペット達と仲直りしたとかで、喜びに満ちた報告が携帯電話にかかってきた。
だがしかし、問題が一つ残っている。
「プロデューサー! また来たぞ!」
鍵が掛かっていたはずの扉を開け、勢いよく彼の部屋へと響が訪れた。
そう、最後に渡したあの鍵。
あれをまだ、返してもらっていないのだ。
「響、いいからその鍵をだな」
「いいじゃないかプロデューサー。もう一つ鍵があるんだろ?」
「ある、あるけどだ」
「ならいいじゃないか」
こんな感じに、彼がいくら言おうと鍵を返す素振りも無い。
それどころかこの前のお礼と言って、ほぼ毎晩夕食を作りにやってくる始末である。
「インスタントラーメンだけじゃ身体に悪いからな!」
とかで、夕食どころか例のお泊り用の鞄が、既にこの部屋に当然の如く設置されている。
その内、自宅のペット達や家財道具まで持ってきそうな雰囲気だ。
「ほら、できたぞ! 今日は自分特製のゴーヤーチャンプルーさー」
通い妻、という単語がふと彼の頭をよぎった。
あーんと料理を掴んだ箸を口元に持ってくる響を眺めると、このまま自分がどうなるのか。
そう考えてしまうのであった。

―――――――――――――――――――

響とペットの喧嘩。響は割りと書きやすい
Category : アイマス[響]

ミテマスヨー
日1更新楽しみにしてますね^^
2010.08.12 23:29 | URL | 青狸 #- [edit]


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