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その雨は

Posted by ユウ on 05.2011 0 comments 0 trackback
夜風が三浦あずさの長い髪をさらさらと撫でる。
若干の湿度と涼しさを含んだそれが心地よいのか、ふわりと浮いた髪を手で梳いて、くすりとどこへでもなく微笑みを向けた。
そして、じっと空を見上げる。
空はどんよりとした雲で覆われていて、晴れているなら見えるであろう美しい光の河が遮られている。
今にも、雨が降りそうな雰囲気。
「残念でしたね、雨で」
背後から声がした、もう何度聞いたかもわからないその声。
この事務所に来てから、常に自分と一緒にあったその声につい顔が綻ぶ。
その表情のまま、ゆっくりと彼へと振り返った。
「あら、プロデューサーさん。どうしたんですかその笹」
「ああ、これですか。七夕には笹が必要だろうと、貴音がどっかからか持ってきたんですよ」
持て余すように、天井に着きそうなくらい大きな笹を彼がさらさらと揺らす。
ああ、そういえば今夜は事務所で七夕パーティーと言っていたか。
まあ何のことは無い、ただいつものように騒ぐだけの風情も何もないパーティーであるのだが。
「そう、貴音ちゃんが」
「こんな立派な笹、どこから持ってきたんだか」
「案外貴音ちゃんのお家に生えてるんじゃないかしら」
「はは、ありそうで困りますね」
訪れたことは無いが、彼女の話や立ち振る舞いから察するにかなりの純和風な豪邸に住んでそうな印象を受ける。
彼の言った通り冗談ではなく、月夜の晩に庭の竹林に佇む貴音の姿がありありと想像できた。
あまりのマッチ具合に思わず笑みがこぼれた。
着物で、竹林。
まるで竹取物語の一シーンである。
「それで、プロデューサーさんはどうされたんですか?」
「どうされたとは?」
「笹を持って現れたので」
ああ、と彼が納得したような声を出した。
あずさがいるのは、普段事務や朝礼などが行われている部屋である。
パーティーをすると言っていた時、指定された場所は確か会議室であったはず。
だから声をかけられた時は、少し驚いた。
誰にも気づかれないように会議室を抜け出してきたはずなのに。
「外が一番見えるのはやっぱりここなんで、笹を飾るならここがいいかなと」
「窓、大きいですものね」
また窓の方へと視線を向ける。
765と大きくガムテープで貼られているため、少し見づらいがここの窓が一番大きい。
あずさもそのために一人ここへ来たのだから。
だが、その空は。
「雨、降ってきましたね」
ぽつ、ぽつと雨が窓をノックし始めた。
街灯に照らされて金色の糸のように見える雨が、視界を覆っていく。
空なんて一筋も見えない。
「こりゃあ、織姫と彦星も会えず仕舞いかな」
ふう、と残念そうに彼がため息を吐いた。
「残念そうですね、プロデューサーさん」
「こんな立派な笹があるのに、せっかくの天の川が観れないとなると」
雨が降ると、織姫と彦星が逢えないとよく言われている。
雨で川が氾濫し、渡れないのだと。
せっかく一年に一度、長い間待ってやってきたこの夜なのに。
だけど自分は。
「雨でも、いいじゃないですか」
いつ降るかな、と待ち続けていた。
昔本で読んだ七夕の雨への一言が素敵で、ずっと心に残っている。
「何か言いました?」
「いいえ、何も」
会議室の方から、声がした。
どうやらプロデューサーを探しているのだろうその声に、彼が慌てるように笹を窓辺に置き、応える。
「じゃああずささん、もうすぐパーティーも始まるみたいなんで」
「ええ。すぐ行きます」
そうしてどたばたと駆けていく彼の背中を見送った。
笹と一人、事務所に残される。
よくよく見れば、笹には既に多くの短冊が吊るされていた。
トップアイドルになる、や家族が幸せでありますように等、多くの願いが書かれている。
願い、とはたと考え手が止まる。
自分の願いは、何だろうか。
ずっとずっと、彼と出会うずっと前から持っている一つの願いがある。
でもそれを書くのは、少し躊躇われる。
ただ彼に見られるかもという恐れからではない、実際彼には自分の夢を既に話している。
その夢の対象が、彼になる以前の事だけれども。
書かない理由はそれではない。
もう一度、空を見上げる。
雨脚は段々と強まってきている。
この分だと、明日の朝まで振り通しだろう。
「この夕 降り来る雨は 彦星の 早漕ぐ船の 櫂の散りかも」
ゆっくりと、記憶を頼りに言葉を発する。
確か、こんな言葉だったはずだ。
これだけ雨が降っているのだから、彦星もそろそろ織姫の元へと着いた頃だろうか。
誰かがあずさがいない事に気付いたのか、大声で名前を呼んでいるのが耳に届いた。
ずっと空を眺める友になっていた椅子から立ち上がり、声の方へと向かう。
さて、願いはどうしようか。
胸に秘めるこの願いは、誰の手も借りず――彼の手は借りっぱなしであるけれど――自分の手で、叶えたいと思う。
すぐそばの運命の人が、私に気付いて河を渡ってくれる為に。
一年でも、何年かかってでも。
そのために自分は、彼が目を離せないくらいのスターになるんだという決意。
だからこの願いは書かない。
「そうすると……この短冊はどうしましょう~」
困り果てたという表情で、何も書いていない短冊と共に、ゆっくりと会議室への扉を開けた。

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Pixiv用に使った七夕SS
雨の七夕ってのもいいもんじゃない?という思いのものゴリゴリ書いたよ!


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